CONTENTS
‘MARIGOLD’
♪PROFILE♪
Mitchell Adam Johnson
Minneapolis, Minnesota USA
♪MUSIC♪
MITCHELL ADAM JOHNSON – ‘MARIGOLD’(LP)
23 MARCH 2018
♪REVIEW♪
2015年BurgerRecordsのSeanの紹介で、Mitchell Adam Johnsonと彼の’Half Moon Lane(EP)’を知り、ハイトーンで優しい歌声と心に染み込むポップさ、そしてパフォーマンスの精緻さに、一気に引き込まれていった。すぐに彼にコンタクトを取り話を聞いたところ、もともとサポートの演奏者として活躍していて、あまり乗り気ではなかったが、周囲の強いすすめでソロワークを制作するに至ったという。腰を据えて長い時間をかけて培われた音楽理論と、鍛錬された技術は優れたポップソングを生み出すのに最高のバックグラウンドだったのだ。彼らしいノスタルジックで、センチメンタルな世界観も、リスナーの心に寄り添うような親密さを感じさせた。それだけに私は今回のフルアルバムを長い間待っていた。実際、Mitchellに”アルバムはまだなの?”って聞いたことがあった覚えがある(笑)。それと同時に、EPがあまりに素晴らしかったから、”アルバムは大丈夫かな、がっかりしたくないな”という気持ちも正直あった。でも、そんなことは杞憂に終わった。
‘MARIGOLD’(マリーゴールド/イエローやオレンジの菊科の花)と題された本作は、あまりに美しく、完璧なポップアルバムに仕上がった。前作のEPが習作に思えるほどに、1曲1曲の質がさらに向上、全10曲が繰り返し聴くに値する粒揃いの曲である。息を飲むほどに心地よい楽曲は、音楽知識と技術の集積による彼、王道の作曲だと思っていたが、実際はそんなに単純ではなかったようだ。ある程度のスキルになると、今までの積み重ねで一定の水準の曲が作れる(音楽マニアの彼の場合は、その時点で質が高いのは容易に想像がつく)。だが彼はまず、自分の潜在意識に対する疑問から入った。これまでの習慣で作ると、一段上の作品は作れないと自分自身に厳しく向き合った。同じことを繰り返す傾向が他のアーティスト同様、自分にもある、それを変えないことには前には進めない。そういった意識から、彼は曲を作りながら、並行して音楽的にその曲を解体し、作り直していく。慣れ親しんだコード進行をあえて外れ、自分の殻を突き破ることに力点を置いた。このソロワークとは別にピアニストとして、R&BとSoulのプレイヤーとして参加した経験もまた、新しい視点や試みに影響を与えたようだ。挑戦の結果は、前述の通り大成功である。音楽を愛するがゆえに自分に厳しく、以前は謙遜していた彼だが、今では”力強いソングライターになった”と語るに至ったのは堅実な自信の表れだろう。
SEI
♪INTERVIEW WITH MITCHELL ADAM JOHNSON♪
Q
この作品で一番伝えたいことはどんなことですか?
A
このアルバムでは、力強く、ダイナミックで、クリエイティブなポップミュージックを作ろうと思った。しっかりとしたメロディーと面白いコード進行を作ることが基本的なゴールだったね。文字通り、このアルバムはまとめるのがとても難しかった。メッセージは本当になくて。本来、自分自身や感情をもっと表現することだとは思うんだけど。僕の言葉に共感してくれたら本当に素晴らしいことだと思うよ。
Q
どんなところにこだわって作りましたか?
A
音楽的に、このレコードはばらばらに切り離されている”完成された”曲達だ。まず、ポップな曲にまとめようとして、それから自分にとって心地いい領域から外れたメロディーを書き加えることで、無理やりそれを破壊しようとした。そして、コード進行を完成されたキーから外れた方向へ押し進めていった。その大部分はインヴァージョン*による実験だ。理論オタクならディミニッシュコードの豊富さに気づくだろうね。自分自身を含めて多くの作曲家は 同じ手法を繰り返してしまいがちだ。コードの形やパターンは各人の癖になってくる。それは良いことなんだけれど、そのために時々冒険的なことがしにくくなってくる。今回、僕は自分自身に意外性のないパターンがあることを認めた。(そして、そこから外れるよう自分を仕向けることで)、最終的には、もっとエキサイティングな曲を揃えることができたんだ。同じアプローチをオーケストラやプロダクションにも行って、うまくいったよ。アルバムのアートワークはCasey McLaughlinによるもの。子供の頃からの友達で、’Half Moon Lane’(EP)でも協力してくれた。彼は天才で、才能ある友達であり協力者がいてラッキーだと思う。
*転回:隣接した二つの音のうち、どちらかを1オクターブ上、または下へ移動させること。和音の根音を別の位置に動かすこと。/反行:隣の音同士の音程を、上であれば下、下であれば上に反転させること。
Q
音楽を通して探求していることは何ですか?
A
カーニバル、メリーゴーラウンド、観覧車。Ray Bradbury(レイ・ブラッドベリ/アメリカの小説家)をたくさん読んだ。’Something Wicked This Way Comes(何かが道をやってくる)’や ‘The Halloween Tree(ハロウィーン)’のような本の中で彼が作ったイメージは、僕が音楽的に演奏で表現したいことでもある。
Q
最近、誰にインスパイアされますか?
A
Margo Guryan(マーゴ・ガーヤン/アメリカの女性ソングライター。1937年生まれ)をこの4年もの間ずっと聴き続けている。非常に力強く美しく、それでいてポップでキャッチーなところに感銘を受けている。彼女のリズムやメロディー、曲の展開を分析をすると、さらに感動するんだよね。彼女はおそらく、自分にとって、現時点における最も大きなインスピレーションだ。
それから僕はCandiというミネアポリスにあるR&BとSoulのクラブに最近入って。(いつもの)ライブバンドではギターとベースを弾いてきただけなんだけど、このクラブではピアノを弾くんだよね。カバーやオリジナルソングを演奏するのは、学ぶのに慣れている一般的なポップやロックを理解することより、とても難しいんだ。ほとんどすべてのコードが7thか9thまたは13th。サスペンションが至るところにあって、クラスターコードとか、すごいよね。このジャンルの音楽を演奏することで、自分自身がより強いソングライターになってきたんだ。僕自身のソロの音楽はかなりシンプルだけど、このアルバムにおいてはもう少し洗練されているよ。
ENGLISH VERSION
Q
What is the most important thing that you want to communicate to listeners?
A
I wanted to write expressive, dynamic, creative pop music for this record. My primary goal has always been to craft strong melodies and interesting chord progressions. Lyrically, this album was very difficult for me to put together. I don’t really have a message, per se; it was more about expressing myself, emotionally. If anyone happens to relate to my words, that’s wonderful.
Q
How did you try to make these songs?
A
Musically, this record is all about ripping apart “finished” songs. I would put together a pop song, then force myself to break it up by rewriting melodies outside of my comfort zone and pushing chord progressions outside of the established key. A big part of that was experimenting with inversions. Theory nerds might notice the abundance of diminished chords. Many writers (including myself) can get a bit too comfortable regurgitating the same tricks. Chord shapes and patterns start to become second nature. That’s a good thing – however, because of this, we can sometimes become less adventurous. I forced myself to acknowledge my predictability this time. In the end, I created a much more exciting collection of songs. We took the same approach with orchestration and production, as well.
The album cover was drawn by Casey McLaughlin. Casey is a friend of mine from childhood. He also did the artwork for my last project, Half Moon Lane. He is a genius – I’m lucky to have such a talented friend and collaborator.
Q
What is the theme you are looking for through making music now?
A
Carnivals, carousels, Ferris Wheels. I read a lot of Ray Bradbury. The imagery he created in books like ‘Something Wicked This Way Comes’ and ‘The Halloween Tree’ was something I wanted to play with, musically.
Q
Who inspires you in these days?
A
I’ve been listening to Margo Guryan non-stop for about 4 years now. I’m so impressed with how she was able to write something so expressive and beautiful, while simultaneously keeping the melodies poppy and catchy. It’s even more impressive when you start to analyze her rhythms, melodies, and progressions. She is probably my biggest inspiration at this point.
I joined an R&B / Soul group recently in Minneapolis called Candi. I’d only really ever played guitar and bass in live bands, but in this group I am the pianist. The covers and originals we do are SO much more difficult for me to figure out than the average Pop / Rock tune I am used to learning. Almost every chord is a 7th, 9th, or 13th. Suspensions everywhere, clustered chords – it’s great. Playing around with this genre of music has shaped me into a much stronger songwriter. My solo music is still fairly simple, but it’s a bit more sophisticated on this album.