LA FEMME

‘RUNWAY’

♪PROFILE♪

2010年にフランスのピアリッツにて、Marlon Magnee(キーボード)とSacha Got(ギター)が出会いLa Femmeを結成。その後、彼らはパリへ移住し、他のメンバーも加入した。
2013年のデビューアルバム’Psycho Tropical Berlin’はフランスのデジタルチャート1位を獲得。彼らはSAINT LAURENT PARIS MEN’S AW 2015-16 COLLECITONへの‘Me Suive’楽曲提供でも話題となる。2017年発表の2ndアルバム’Mystère’も好評。2018年9月には、彼らはHedi SlimaneデビューとなるCELENE WOMEN AND MEN’S SS 2019 COLLECTIONのサウンドトラックを’Runway’を提供し再度注目を集めた。名実共に新世代のパリのロックシーンを牽引するバンド。2019年2月にはシングル’L’hawaïenne’をリリースした。

La Femme(ラファム/フランス語で’女性’の意味)

♪MUSIC♪

‘Runway’
2018

’L’hawaïenne’
February 2019

La Femme – ’L’hawaïenne’

♪REVIEW♪

Written by SEI

JAPANESE VERSION

最も旬なパリのロックシーンを牽引するLa Femmeをご紹介します。彼らが手掛けた’Runway’という曲はHedi SlimaneによるCELINE初のコレクションのために制作されたということもあり、ロックファンのみならずファッションアディクトからも非常に大きな関心が寄せられました。今回はHediがなぜこの曲をコレクションのために選んだのかを4つの観点から考察していきます。また、La Femmeへの本ブログ独占インタビューは後半でご紹介しております。Hediやショーにも触れています。こちらもぜひご覧ください。

1:Hedi退任以降のファッションシーンの流れ。

まず、Hedi Slimaneが2016年4月1日にSAINT LAURENT PARISを退任した後のファッションシーンを見ていきましょう。実際には退任した後も、2016年のSSとAWのコレクションが展開されたため、ポストHediの流れが顕在化するのは2017年以降となります。

SS16のコレクションは一大トレンドに
その内16年SSの’SURF SOUND COLLECTION’は、カリフォルニアのユース/カウンターカルチャーから着想を得た提案で、そのスタイルが大衆化するほどの大ヒットとなりました。日本は元々アメカジがファッションのベースとしてあるため、このトレンドとは非常に相性がよく、多くの有名人がこぞって着用したり、ファストブランドでも模造品が多く出回ったため取り入れやすかったり、またコアなファンは古着でHediの元ネタを探したりと、ファッション感度の高低問わず10年代中盤メンズファッションの決定版ともいうべきメインストリームとなりました。

SAINT LAURENT PARIS MEN’S SS
2016 COLLECITON

Hedi退任の後に流行ったのは何か?
さて、2010年代中盤のトレンドのメインストリームを担ったHedi Slimaneの退任後(2017年以降)における、ファッションアディクトの購買動向を推測すると、おそらく以下のようになるのではと思われます。これらは全て別の人という意味でなく、同じ人が時を経て別の消費行動、あるいは同時並行で異なる消費行動をとったケースもあるでしょう。

A:Hediのコアなファンは、彼がデザインした服/彼が着用したことのある、元ネタとした古着などを追う。

B: Hediが作った流行のフォロワーはSAINT LAURENT継続orAMIRIに。
 B-1:SAINT LAURENT自体に愛着がある方は引き続きAnthonyによる同ブランドに。

SAINT LAURENT PARIS MEN’S AW
2017-18COLLECITON BY Anthony Vaccarello


 B-2: ‘SURF SOUND COLLECTION’のトレンドの後追い/留まった方はLA発のAMIRIに。

AMIRI SS
2018


C: ヒップホップやストリートの流行に遷移した方は、(超ざっくりまとめると)KanyeのYEEZYやFEAR OF GOD、SUPREMEやOFF-WHITEとNIKE
のコラボ、そしてもちろんDemnaのBALENCIAGAやVETEMENTSに。

BALENCIAGA MEN’S AW 17-18 COLLECITION

Hediと対置するヒップホップ、オーバーサイズ、マキシマリズムが主流に
2017年以降の細分化したトレンド動向を俯瞰してみるならば、SAINT LAURENT PARIS BY HEDI SLIMANE(=カリフォルニアロック/スキニーstyle)以降の大きな流れは2つ。

Hediからの影響の継続(前述の消費行動A、B)
  AはHediの真のフォロワー、BはHediが作った流行のフォロワー。
 *AはBのブランドをHediのコピーとして避ける傾向あり

Hediへのアンチテーゼ(前述の消費行動C)
 ロックに対してヒップホップ
 スキニーに対して脱構築シルエット/オーバーサイズ
 ミニマムに対してマキシマリズム
 ローテクに対してハイテク

17-18年のメンズファッションのメインストリームは前者から後者へと切り替わった感はありました。またInstagramの影響でいわゆる’映え’のためにトレンドが消費され続ける、消費者のハイプビースト化が顕著となりました。ただ趨勢としては、後者も19年5月の現在では相当にブームは落ち着いてきましたね。

LVMHによる3大ブランドのデザイナー交代
これまで消費者視点で市場を見てきましたが、続いて企業側からファッション界の動きを見ていきましょう。18年にはメンズのデザイナー/クリエイティブディレクターの交代が話題となりました。

全て18年に発表。販売面での影響は19年から。ブランドは各グループアルファベット順。

LVMH
 CELINE:Phoebe PhiloからHedi Slimane
 DIOR HOMME:Kris Van AsscheからKim Jones
 LOUIS VUITTON(メンズ):Kim JonesからVirgil Abloh

KERING
 BALENCIAGA:Demna Gvasali継続
 GUCCI:Alessandro Michele継続
 SAINT LAURENT:Anthony Vaccarello継続
 *主要ブランドは変更なし。細かくいうとあるのですがここでは割愛。

独立ブランド系
 BURBERRY;Christopher BaileyからRiccardo Tisci
 CALVIN KLEIN:2019年Raf Simons退任(商業的な失敗で退任に追い込まれた)

KERING躍進に対する危機感がLVMHを動かしたか
18年はデザイナー交代のニュースが連発していましたが、上記のようにこれらを各ブランドを傘下におさめるグループでくくると、大きな流れが見えてきます。

特筆すべきは、世界最大のフランスのコングロマリットLVMHの采配ですね。3大ブランドの変更の理由は、商業的に絶好調な同じくフランスのコングロマリットのKERING躍進に対する危機感でしょう。経営陣が相当な手腕で、Alessandro Micheleを起用したGUCCI、Demna Gvasaliaを起用したBALENCIAGAなどで大ヒットを連発。Hediがいた頃はもちろんですが去ったあとのSAINT LAURENTも実は好調だったようで、18年12月の決算では、LMVHが売上高468億ユーロ(約5兆8032億円)、前期比9.8%増。KERINGが36億6520万ユーロ(約1兆6944億円)、前期比26.3%増。売上高としてはLVMHが依然大きな差をつけているものの、成長率ではKERINGが上回っています。 詳細の数字はこちら。

LVMHの意図を推測するならば、Hediはロイヤリティの高いフォロワーが多く、直近のズバ抜けた実績もあるため一番の安パイ、選任当時最も旬だったVirgil Ablohはストリート市場を見据えた強烈なインパクト狙い、Kimはその中間。これらを同グループの手札のポートフォリオ(組み合わせ)として捉えると、ストリートからモード、トレンドもコンサバもしっかりおさえた磐石な布陣で、市場で確実に勝ってやろうという、強烈な意志を感じさせます。

19年以降はトラッド回帰がトレンド。ストリートはどこまで延命するのか
新デザイナー陣の仕事が実際に市場に反映される19年は、17年から継続するストリートの流れと19年発のコンサバなモードが並行しています、この均衡がどこまで続くのかが注目に値します。19年SS以降のコレクションでは、HediのCELINEだけでなく多くのブランドがトラッド回帰しており、トレンドとしてはAW以降主流になっていくと思います。ウィメンズの方がその影響が表れるのが早いでしょう。一方、メンズはストリートの影響がまだ相当に強く、しかもストリートを得意とする3名すなわち、時代遅れになりかけていた自身をNikeとのコラボの功績で延命どころか時代の寵児へと躍進したVirgilがLOUIS VUITTONで、17年最大のハイプLOUIS VUITTONとSUPREMEのコラボの首謀者であるKimがDIOR HOMMEで、HediのDIOR HOMME以降、モードにストリートを持ち込んだ実績のあるRiccardo TisciがBURBERRYにて、その影響力を発揮し続けるので、どこまでストリートが延命するのか読めないのです。

Hedi vs ストリート因縁の対決の行方は?
SAINT LAURENTのスタイルを過去へと押しやった、ストリートのトレンドは、CELINEによって返り討ちに合うのか? むしろストリートがHediのスタイルをコンサバな過去のスタイルとして跳ねのけるのか? あるいは双方共存していくのか? 約20年前、DIOR HOMMEが90年代のストリート系にとどめを刺したことと同じ現象が、19年以降に再び繰り返されるのか否か、非常に興味深いところです。

もちろんその疑問に対する答えを弾き出すのは、 コングロマリットでもHediでもKanyeでもなく、我々消費者(市場)ですね。企業側はいくらマーケティング施策はできても、買うか買わないを決めるのはあくまで我々に委ねられているのです。

DIOR HOMME MEN’S AW 2001-02 COLLECITON

2:La Femmeのロック史における立ち位置

フランス歴代のロック直系のLa Femme
PROFILEで概略は紹介したので、ここではLa Femmeの音楽的な立ち位置を考察していきます。このバンドの大きな特徴は、商業的に成功していること、今のフランスの音楽シーンを牽引していること、そしてフランスのロックムーブメント直系のサウンドであることが挙げられます。前者2つについてはPROFILEでご紹介したので、ここでは最後に挙げたフランスのロック直系であるということについて見ていきましょう。後述のインタビューで影響を受けたバンドを聞けたので、そこから一気に掘り下げていきます。

フランスには2つのロックムーブメントがあった
彼らが影響を受けたのがフランスの2つのムーブメント’French Yé-yé’と’French Cold Wave’です。いずれもアメリカやイギリスのロックから影響を受けながらも、フランス独自の音楽シーンを切り開いていきました。他にフェイバリットで挙げている2つのアーティストも、ドイツのKraftwerkは電子サウンド面、アメリカのThe Velvet Undergroundはパンクロック面で’French Cold Wave’シーンに影響を与えているので、同じ流れで捉えることができます。つまり、La Femmeはフランスのロックの系譜に連ることに非常に意識的であること、裏返すと昨今主流の欧米のインディ/オルタナティヴロックシーンとは意図的に距離をとっていることが明らかです。

1960年代初期の’French Yé-yé’
イギリスのThe Beatlesらが一般化した英語の’Yeah! Yeah’!が由来。ロックがアメリカで発明され、イギリスが洗練化し、そして南ヨーロッパに派生したという流れですね。
このシーンで彼らが影響を受けたアーティストとして挙げているのは
Serge Gainsbourg (セルジュ・ゲンズブール)
Jacques Dutronc(ジャック・デュトロン)
Stella Vander(ステラ・ヴァンデ)
Zou Zou(ズー・ズー/ブライアンの恋人でもあったフランスの女優)

Serge Gainsbourg – ‘Gainsbourg Percussions’

1970年代後半の’French Cold Wave’
これは技術革新によるシンセサイザーの大衆化をきっかけにしたムーブメント。Korg MS-20などのシンセサイザーを一般人でも手頃な価格かつ携帯できるようになり、パンクバンドが使い始めたことでシーンが誕生。
このシーンで彼らが影響を受けたアーティストとして挙げているのは以下です。
Ruth(Hediは19年SSのキャンペーンに’Polaroïd/Roman/Photo’を使用。カットされている歌の部分もすごくいいです)
Jacno(お気づきのとおりHediは商品の名称として彼の名を借用しています)
Marie Et Les Garçon(The Libertinesサウンドの元ネタです。イギリスのパンクだけでなく、このバンドにも彼らはつながっていました。一聴いただくとHediがあそこまで彼らに入れ込んだのか、その理由がわかります)
Deux(電子音、男女のフランス語のボーカルがLa Femmeにもかなり近しい印象です)
*カッコ内は私の補足です。

Ruth – ‘Polaroïd/Roman/Photo’

3:Hedi SlimaneにとってのLa Femmeとは

原体験としての’French Cold Wave’
Hedi自身が繰り返し言及しているように、青年の頃Parisのクラブに夜な夜な通い詰めた’French Cold Wave’のシーンこそ、彼の原体験の一つでしょう。彼の永遠の憧れでもあるアメリカとイギリスのインディ/オルタナティヴロックシーンのフランス版こそがまさにこのシーンであり、深い愛情をもっていることは容易に想像ができます。実際、CELINEの19ssはもちろん、DIOR HOMMEのラスト07-08年AWといった節目となる大切なコレクションのモチーフとして登場してきました。

DIOR HOMME MEN’S AW 2006-07 COLLECITON

パリのユースシーンへの失望と期待
Hediはフォトグラファーとしても、最も旬なユースカルチャーのシーンをドキュメントするため都市を移動し続けていきました。00年代はベルリンやロンドン、10年代はLAですね。そしてその間、パリに対しては保守的であまり面白くないといった旨の発言をされていました。ただDIOR HOMME退任後である2008年、左岸の若いパリジャンのポートレート撮影も行っていました。だから、故郷に対する辛辣な言葉は彼自身のパリに対する愛着と期待の裏返しだったのでしょう。つまり、’追いかけたくなるユースがパリにいれば、俺はいつでも駆けつけるぞ’といった感じでしょうか。

Photo by Hedi Slimane

パリの新たな活況を異色のコレクションとして取り上げる
イギリスやアメリカのインディ/オルタナティブロックに憧憬を抱えドキュメントを続けながらも、彼が心底望んでいたのは、やはり’French Cold Wave’のような生まれ育ったパリのユースシーンの復活でしょう。そして10年代中盤以降、パリ周辺のユースカルチャーが活発化。待ちに待ったその期待にばっちりハマったのが、フランスのロック直系La Femmeでした。機は熟し、HediはSAINT LAURENT PARIS AW15-16 COLLECITONのためにLa Femmeに楽曲制作を依頼。Hediはこれまでのカリフオルニアやロンドンのファッションとは異なる新時代のパリジャン/パリジェンヌのスタイルを提案、合わせてパリ周辺のアーティストを紹介するほどの徹底ぶりで、SAINT LAURENTの中では異色のコレクションとなりました。

SAINT LAURENT PARIS MEN’S AW
2015-16COLLECITON

4:CELINEでLa Femmeを起用した理由とは

ブランド移行までのあまりの期間の短さ
La Femmeにサウンドトラックの依頼をした理由に辿りつくためには、これまでの考察に加え、Hedi自身の置かれた状況と彼の内面についても推察していく必要があります。先に述べたように彼は、16年4月1日にSAINT LAURENTを退任しています。その後、18年1月にはCELINEのクリエイティブディレクター就任の発表、同年9月には19年SSコレクションを披露しました。過去、DIOR HOMMEは07-08年AWをもって退任し、SAINT LAURENTでは13年SSで復帰の期間と比較すると、今回は契約交渉の段階や発表までの水面下の準備期間を考慮すれば、ほぼシームレス(継ぎ目なし)で移行したと思えるほどの短期間です。

SAINT LAURENT退任の真相
DIOR HOMME時代、彼は自らの意思で退任を選び、お別れのメッセージを発表し、後任も自らのアシスタントだったKrisを指名し、センセーショナルであったもののLVMHとは穏便にファッションの舞台から去りました。そしてLAに居を移し、じっくり腰を据えてフォトグラファーとして活動に入りました。しかしながら、SAINT LAURENTの退任時はオフィシャルのコメントはなく、唐突に終焉を迎えました。売上は絶大だったので、ブランド側からの要請はなかったはずです。ちなみに、彼が慕っていたPierre Bergeの死は17年のため、時系列的には直接の影響はないと考えられます(ただし病状悪化の過程は随時把握していたはずなので、その影響はあるかもしれません)。

自らの意思で退任したDIOR HOMME、退任をせざるをえなかったSAINT LAURENT
2016年に退任以降、我々はこれまで見たことがない種類の彼のニュースを目にすることになります。それは金銭や契約に絡んだ訴訟であり、弁護士からの声明でした。

A: 彼からブランド側に対して契約についての訴訟を起こす。(Hedi側の勝訴)
B: 彼の弁護士から自身の名前でのブランドの設立意思はないとの公式アナウンスがなされる。

ここから退任の理由は(噂のあった)彼自身のブランドを立ち上げたかったことではなく、ブランドサイドと契約面での不和であったことだと推察されます。やるべきことを一旦完遂したという自らの意思で退任したというDIOR HOMMEとは異なり、SAINT LAURENTは仕事内容としては満足しており、まだ続けてもよかったけれども、(契約面で納得ができず)辞めざるをえなかったのではというのが仮説です。実際、一緒に前ブランドを作っていた制作チームは、新ブランドのタイミングで再度召集しているので、当たらずとも遠からずではないでしょうか。

CELINEの第一印象は’Déjà-vu’(既視感)と’Jamais vu’(未視感)
2018年パリ現地時間9月29日に発表された待望のCELINE1stコレクションを見た際に、私の内面に浮かび上がったのは何ともいえない複雑な感情でした。時を経た今ならそれを2つの言語に集約することができます。それは、”これまで見たことのあるSAINT LAURENTやDIOR HOMMEと似たスタイルが多いな”という’Déjà-vu(デジャヴュ/既視感)’と”これは今まで見慣れたHediのスタイルのようでありつつも、初めて見る新しいファッションだ”という’Jamais vu(ジャメヴュ/未視感)’という2つの認識です。これは私特有の現象ではなく、ファーストインプレッションで同じような認識を持たれた方も多いのではないでしょうか? もしそうだとすれば、それはHediが意図してやったことのはずです。では、彼はなぜそうしようと思ったのでしょうか? そしてそれはどのような手段で行われたのでしょうか? いずれにせよこの2つの認識を市場にもたらすことで、トレンドのパラダイムシフトは起きました。すなわち、彼自身が作り上げ今なおそのコピーが生き残るカリフォルニアのロックスタイル、そして彼が去った後台頭してきた90年代のリバイバルのストリートという2つのトレンドはこの夜のショーを境にして、ひとつ前のタームへとして位置づけられ、代わってパリのモードが最新のトレンドに踊り出たのです。それではいよいよ大詰めです。彼の意図とその手段を考察していきましょう。

CELENE WOMEN AND MEN’S SS 2019 COLLECTION

CELINEの1stコレクションに対して自ら課したであろう要件
彼にとってのコレクション成功の要件とその理由、そして彼が実際におこなったことを照らし合わせることで、La Femme選定の意図を推察していきます。

前提(彼の性分からすれば当たり前のこと)
前任者Phoebe Philoの功績は気にせず、ゼロからスタートする。
DIOR HOMME時代05-06年AWで完成させた基本方針、今のユースのドキュメントでありつつ、過去のカルチャーとひもづけたファッションを提案する。

満たすべき要件A: ‘変わっていない’ことを示す
退任理由はあくまで契約面での不一致であり、ブランドについては理想を実現していた。またインターバルも一年しかなかったことや年齢を考慮すると、服のデザイン面に対する大きな認識の変化があったとは思えません。
むしろ以前から変わらないということを示すことで、彼の模倣者達に対して、あるいは不和に終わった古巣(しかも彼の遺産を用い成功している)に対して、本物を見せつけてやろうという気持ちがあってもおかしくはありません。

実際に行ったことA:’変わっていない’ことを示す
シルエット面において、DIOR HOMMEからSAINT LAURENTへ移行した際のような大きな変更をしない。むしろSAINT LAURENTで完成したシルエットをベースに改良しつつ、それだけでなくSAINT LAURENTとDIOR HOMME時代をも含めて、これまで提案してきたコーディネートをあえて多用する。
そして、これもかつての彼では考えられないことだが、SAINT LAURENT15-16年AWのコレクションで、使用したLa FemmeのサウンドトラックとPARIS SESSIONのテーマをあえてもう一度取り上げる。

満たすべき要件B:’変わった’ことを示す
シルエット面では、Anthonyが思いのほかHediそのままのスタイルを継続しているというだけでなく、彼自身の性格を考慮するならば、全く同じパターンを継続するにはいかないでしょう。
また、バックグラウンドとなるカルチャー面では、最初に考察したとおり、10年代中盤に彼が提案したカリフォルニアのロックスタイルは既にトレンドから後退しつつあり、市場ではストリートやヒップホップ全盛となっている。よって両者とは異なるシーンをブランドのバックグラウンドに据える必要がありました。

実際に行ったことB:’変わった’ことを示す
極限にまで突き詰めたスキニースタイルを更新。適度にゆとりをもたせ、モデルの体形と服の隙間を生かす。
カリフォルニアのロックシーンの代わりに、パリのロックシーンを新たなバックグラウンドに据える。その象徴としてフランスのロック直系かつ今のパリの音楽シーンを牽引するLa Femmeのサウンドトラックを使用する。
カリフォルニアのロックスタイルやストリートのトレンドとは全く違う、コンサバなパリのモードを提案する。

彼の過去、現在、未来を象徴する音楽はLa Femmeをおいて他になかった
長くなりましたが総括です。この1stコレクションは、彼のデザイナーとしての<過去>(YVES SAINT LAURENT rive gauche、DIOR HOMME、SAINT LAURENT PARIS)、かつ原体験でもあるFrench Cold Waveの系譜に連なる’パリのドキュメント<現在>、そしてこのショーから始まる、CELINEというブランドで作り上げていく、世界のファッションの<未来>、その全てを包含したものであったと思うのです。そしてそのショーの中で流れる音楽は、彼の過去、現在、未来を包含する象徴でなくてはならなかったはずです。そして、それができるのは前ブランドでも楽曲を提供したことがあり、フランスロックの直系であり、かつ今のシーンを牽引する、La Femmeをおいて他にいなかったのではないかと思うのです。みなさんいかがでしょうか。

La Femme taken by Hedi Slimane

♪INTERVIEW WITH MARLON MAGNEE♪

About La Femme
Q
音楽を通して探求していることは何でしょうか?
A
愛、歴史、人生、想像、破壊。
Q
La Femmeをバンド名にした理由は何でしょうか?
A
音楽においてこれは禁忌の質問だ、この先いかなるバンドに対してもこのような質問をしてはならないよ。
Q
何に影響を受けていますか?
A
Ruth、Marie Et Les Garçon、Deux、Jacno、Gainsbourg、Dutronc、Stella、Zou ZouといったFrench Cold WaveやFrench Yéyé(のムーブメントのバンドやアーティスト達)だね。それからもちろんKraftwerkとThe Velvet Undergroundも。
*REVIEWにて解説しております。

About ‘Runway’(for CELINE by Hedi Slimane)
Q
この作品を通じてリスナーに伝えたいことは何ですか?
A
ファッション界のみんなに気分よくなってもらいたかったんだ。それから部屋を掃除する時や、彼女と寝る時なんかにもぴったりだね。何しろ20分間ノンストップだからさ。そしてもちろんダンス!!!
Q
そのために、曲をどのように作りましたか?
A
巨大なディスコのオデッセイ(壮大な物語といった意味)を作ってやろうと思ったんだ。長い曲でありながらも、リスナーが決して飽きることのないような。
Q
Hediとはどのように出会いましたか? また彼のリクエストはどのようなものでしたか?
A
2014年にAustin Psych Festで出会ったんだ。僕らは友達になって、‘Me Suive’という20分を超える曲をSAINT LAURENT PARIS(MEN’S AW 2015-16)のために作ったりもした。楽曲の制作者としては自由にやれる、このフォーマットは好きなんだ。
こういったタイプの曲に対する彼のリクエストというのは、”非常にリズミカル”であること。モデルが歩きやすく、エネルギッシュで美しくなるように。それでいてコレクションにぴったりと合っていなくてはいけない。コレクションの中で、音楽と洋服は互いに共存しているわけだからね。とても重要なことなんだ。
Q
CELINEのショウが終わった後にはどのように感じましたか?
A
ショーの間はすごくすごく神経をすり減らすんだ。普段演奏する時なんかよりもずっと。その分、演奏が終わった後はよりリラックスした気持ちになれる。それでも興奮した状態ではあって。それがとても良い経験なんだ。あとショーの間、自分の音楽を爆音で聴けるっていうのは、本当に最高だよ!

ENGLISH VERSION

About La Femme
Q
What is the theme you are looking for through making music?
A
love,history,life,création,destruction.
Q
Why did you choose La Femme as your band name?
A
In music this is a forbidden question , don’t ask anymore to anyband
why they call like this.
Q
Who inspire you?
A
French Cold Wave , French Yéyé like Ruth , Marie Et Les Garçon , Deux
, Jacno , Gainsbourg,Dutronc ,Stella , Zou Zou and of course Kraftwerk
, The Velvet Underground.

About ‘Runway’(for CELINE by Hedi Slimane)
Q
What is the most important thing that you want to communicate to listeners through this song?
A
That fashion all fucking world , I want them to feel good , it’s a
good song for clean your room or make love with a girl because it’s 20
min non stop and also for dance!!!
Q
How did you try to make this song for the show?
A
I try to do a big disco odyssée,I try to do a long song where you can
never be bored
Q
How did you meet Hedi? What is His request?
A
I met hedi in 2014 at Austin Psych Fest , we became friends , and we
did some stuff together like ‘Me Suive’ for SAINT LAURENT PARIS(MEN’S AW 2015-16) and other 20 min soundtrack , I love this format because you feel free as a
composer .
For this kind of song his requests is to be verry rythmique for have a
good model walk ,énergique ,and beautiful and it’s have to fit with
collection because music and clothe are in symbiose meeting in the
same project it’s verry important.
Q
How did you feel after CELINE show?
A
I was super super nervous during the show even more than when I usually performed.After I was more relax , but still feel wired it was a verry good expérience , and I was super happy during the show listening my music so loud.

♪INFORMATION♪

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